2026/2/21
コラム
[疑問にお答えします!]動物園生まれのイヌワシは、本当に野生の空で生きていけるの?
「動物園で生まれたイヌワシが、厳しい自然界で生きていけるのだろうか?」
そう心配される方がおられると思います。
放鳥した幼鳥が生き延びる手助けをどのように行うか、それが本プロジェクトの最大の課題です。
野生下で生まれたイヌワシであっても、巣立ち後の1~2年を生き抜くのは容易ではないと考えられています。国内のデータはありませんが、イヌワシ研究者のジェフ・ワトソンは、成鳥になる(5歳齢程度になる)生存率は約15%であろうと書いています。この数値からも、イヌワシの幼鳥が生き延びることの困難さが伺えます。さらに、幼鳥がどのように狩りを覚えて自立していくかも十分わかっていません。
しかし、南スコットランドでの成功事例に代表される、海外での大型猛禽類のハッキングの成功実績は、イヌワシの幼鳥が自立するために人がどのように手助けしていけばよいか、その方法を示しています。ここではその具体的な方法を紹介します。
南スコットランドの成功事例
イヌワシが3ペア程度にまで減少した南スコットランドでは、北スコットランドの野生のイヌワシの巣から、2羽いる雛のうち1羽(6-8週齢)を、南スコットランドに移送・放鳥し、定着させることに成功しています。2018年から2024年までの7年間に28羽を移送・放鳥し、2025年時点で個体数50羽以上(*)、つがいが約20ペアに増加しています。2025年夏には、2021年に移送・放鳥した雛(雌)が成長して繁殖に成功しています。
(*)移送・放鳥した個体に加えて、既存のペア(3ペア程度)、そのペアから巣立った個体、以前からペアにならずに生息していた個体が含まれる個体数です。
1.イヌワシを「人馴れ」させない
南スコットランドでは、移送・放鳥するイヌワシを「人馴れ」させないことに十分な注意を払っています。具体的には、「人から餌をもらった経験」をさせないことです。そのため、動物園及びハッキング小屋の巣内と、巣立ち後の給餌サイトにおいて「人馴れ」させない対応を行います。
雛は7週齢になると、餌を自分でちぎって食べられるようになります。このタイミングで動物園から南三陸のハッキング小屋に移送する計画です。ハッキング小屋は、人の姿を見せずに雛に餌を提供できる構造になっています。
動物園においても繁殖中のイヌワシは極めて警戒心が高く、来園者から巣が見え難い状況にしてあります。また繁殖は来園者に見えないバックヤードで行われる場合もあります。給餌は、飼育員がケージ内に提供した餌を親鳥が巣内に運んで行われます。幼い雛がケージに出入りする飼育員の姿をどの程度認識するかは不明ですが、少なくとも飼育員から直接餌を与えられることはありません。
2.野生下での餌を覚えさせる
南スコットランドのメンバーから、イヌワシに野生下での餌動物を覚えさせることが重要であると助言されています。動物園では、主に、ラットや馬肉、鶏肉などの餌が与えられます。ハッキング小屋での餌は、これらに加え、ウサギやヤマドリ、タヌキ、ヘビなど野生下で餌となる動物も与え、放鳥後にそれらを餌として認識するよう覚えさせます。
3.放鳥後も幼鳥の状態に応じて給餌を行う
放鳥後はGPS発信器と目視観察により幼鳥の行動や健康状態を見守ります。そして、幼鳥が狩りに成功できるようになるまで給餌を行います。給餌台は幼鳥からは人の姿が見えない場所に設置します。
4.万が一の場合の救護と動物園等への搬送体制
これらの対応を行っても、ケガや病気、長雨や台風、他の個体からの攻撃など、放鳥したイヌワシが野生下で落鳥するリスクが懸念されます。そのため、放鳥個体をGPS発信器による追跡を行い、救護が必要な場合には、緊急で保護収容し、提携した動物園等に搬送する体制を備えています。
イヌワシの幼鳥は親鳥がいない状況で「狩り」を身につけることができるのか?
野生のイヌワシの幼鳥は、巣立ち後半年程度は親鳥と行動を共にし、親鳥から給餌を受けながら、「狩り」の技術を身につけます。その間、幼鳥に対して親が「狩り」を教えるのか?幼鳥が見よう見真似で覚えていくのか?そこには様々な仮説がありますが、現時点で科学的な証明はなされていません。
南スコットランドの事例では、本プロジェクトと同様に親鳥はいません。生まれ持った本能で「狩り」を身につけると考えられています。また、種は違いますが、フィリピンイーグル財団へのヒアリングによると、フィリピンイーグルについて、動物園で生まれた雛を南スコットランドと同様の方法で放鳥し、親鳥がいなくても狩りができるようになったと報告を受けています。

5.順応的管理による技術開発
動物園で生まれたイヌワシを野生復帰する取組みは日本初です。私たちが今回の取組を「技術開発」と位置付けているのも「やってみないとわからない」ことが多いためです。
計画して実行した結果を評価・検証して次の改善に繋げていく「順応的管理(アダプティブマネジメント)」によって技術開発を進めていきます。2026年~28年の3年間連続して放鳥を行う計画にしているのはそのためです。
今回の私たちの取組で得られたデータは、野生復帰の取組だけでなく、今後の日本のイヌワシの保全に広く役立てられると確信しています。
