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2026/2/28

コラム

[疑問にお答えします]なぜ「自然に増える」のを待たず、人の手で「野生復帰」するの?

「イヌワシはまだ日本に生きているのだから、森を豊かにして待っていれば、いつか自然に戻ってくるのではないか?」

自然保護を大切に考える方ほど、そう思われるかもしれません。
本来、野生動物の保全は「生息環境を整えて自然な回復を待つ」ことが最優先です。

しかし、現在の日本のイヌワシは、「生息環境を整えているだけでは絶滅を止められない」という深刻な状況を迎えています。

今回は、なぜ今、「野生復帰」という人の手による介入が必要なのか、その理由をお話しします。

1. 「絶滅の渦」から抜け出すために

近年、日本全国のイヌワシの繁殖成功率は20%(※1)を下回る状況が続いています。特に東北地方での低下は著しく、南三陸に隣接する岩手県には約30つがいが生息していますが、2020年~2024年の5年間の巣立ちヒナ数は年平均1.6羽/年で、約20年前の2002年~2006年の5年間の年平均4.6羽/年から激減(※2)しています。

※1:日本イヌワシ研究会 生息・繁殖状況調査(日本イヌワシ研究会オフィシャルサイト)
※2:岩手県内のイヌワシ繁殖結果 2002年~2024年(岩手県環境保健研究センター HP)

野生生物は、個体数が一定以下に減り、繁殖率も下がると、たとえ生息環境が改善されても自然な増殖が追いつかず、坂道を転げ落ちるように絶滅へと向かってしまいます。これを生態学の用語で「絶滅の渦」といいます。日本のイヌワシはこの「絶滅の渦」に陥っている可能性が懸念されます。

南三陸では2011年を最後にイヌワシが定着しなくなり、その後、10年以上に渡り生息環境再生を続けつつ、イヌワシのモニタリング調査を続けています。かつては年数回程度、他地域から飛来したイヌワシの姿を確認することができましたが、近年はほとんど確認できなくなりました。生息環境が再生していても、その環境に飛来するイヌワシがいない状況だと考えています。

環境省は、種の保存法に基づく「イヌワシ保護増殖事業計画」を2025年4月に29年振りに変更し、新たに「野生復帰(※3)」を明記しました。「絶滅の渦」を回避するためには、生息環境の再生とあわせて、イヌワシの個体数を増やすことが必要なためです。イヌワシの個体数を増やす具体的な取組として「南三陸イヌワシ野生復帰プロジェクト実施計画書」は、環境大臣から保護増殖事業計画に適合している旨の認定を受けています。

※3:環境省が作成した「絶滅のおそれのある野生動植物種の野生復帰に関する基本的な考え方(2011年3月)」において、「野生復帰」は生態学用語の「再導入」「補強」の両方を含めた言葉と定義されています。私たちの取組は、南三陸へのイヌワシの再定着を目指した日本のイヌワシ個体群への「補強」であるため「南三陸イヌワシ野生復帰」としています。

 

2. 絶滅してからでは遅い

トキやコウノトリの野生復帰事業をご存じの方も多いでしょう。
両種はいずれも国内の野生下で数羽にまで減少し、最終的には一度絶滅しました。その後に始まった野生復帰事業の歩みが示しているのは、絶滅してから個体群を再建するには、膨大な時間と労力を要するという事実です。

だからこそ、野生生物を絶滅させないためには、危機が深刻化する前の段階で対策を講じることが必要です。具体的には、「生息環境の再生」と「野生復帰による個体群の補強」を早期に実施することです。

こうした予防的な取り組みこそが、効率的かつ効果的な野生生物保全対策であると言えます。 

3. 他の地域へも広がる「希望の種」

このプロジェクトの目的は「野生復帰の技術」の確立です。
ここで確立された「野生復帰の技術」は、個体数が減少していたり、既に定着が確認できなくなっている他地域でも活用できます。

また、南三陸で放鳥したイヌワシが、他の地域へ飛んで行ったとしても、それは失敗ではありません。生まれた場所からより良い生息環境を探しに行くことは、若いイヌワシの基本的な生態です。南スコットランドの研究者は、周辺地域に生息する野生下のイヌワシと出会うことが放鳥した個体に良い影響を与えると言います。

私たちが目指すこと

「自然の力」を信じているからこそ、その力が完全に失われる前に、ほんの少し背中を押してあげる。それが、今回の野生復帰プロジェクトです。

人の手で放たれたイヌワシが、私たちが再生させた山で獲物を捕らえ、空を舞う。
その姿が「呼び水」となり、日本のイヌワシたちが再び活力を取り戻す未来を、私たちは見据えています。

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